運命の「素材」を研ぎ澄ます。IsekaiSimu v0.3-beta 開発記
自作のブラウザゲーム(というか物語ジェネレーター)IsekaiSimu(異世界転生シミュレーターβ)のアップデート作業に没頭していました。
前回、v0.2βで「JavaScriptが運命を決め、AIがそれを解釈する」というこのツールの背骨を固めましたが、今回の v0.3-beta は、その思想をさらに過激に、そして「使える形」に押し進めたバージョンになっています。
今回のテーマを一言で言うなら、「ログ(情報量)を増やすのではなく、素材(意味)を増やす」。
開発の裏側を少し詳しく振り返ってみたいと思います。
1. AIに丸投げしないからこそ、素材の「解像度」が問われる
IsekaiSimuは、AIに物語を書かせるツールですが、API連携はあえて行いません。
シミュレーション結果をコピーして、使い慣れたAI(ChatGPTやClaudeなど)に貼り付けて物語化してもらうというある種のアナログな手順を踏みます。
ここで開発者が陥りがちなのが「イベントの数を増やせば面白くなる」という罠です。
しかし実際にAIとやり取りを続けて気づいたのは、AIに必要なのは「出来事の多さ」ではなく「解釈の手がかり」だということでした。
数字や事実がただ並んでいても、物語は平坦になりがちです。そこで0.3βでは、出来事そのものよりも、出来事の“意味”を増やす設計を導入しました。
感情タグとインパクトの導入(emotion / impact / tags)
全イベントに「何が起きたか」だけでなく、AIが物語の強弱をつけるためのメタデータを付与しました。
- emotion: 歓喜、恐怖、喪失など、その時の感情。
- impact: それが人生における「転機」なのか「小波」なのか。
- tags: 裏切り、成長、失敗体験といった、物語のプロットを構成するキーワード。
これがあるだけで、AIは「ここは内面描写を厚くするべき山場だな」と判断できるようになります。物語が一気に立ち上がってくる感覚、これが欲しかったんです。
2. 成功と失敗の「あいだ」にあるもの
これまでのバージョンでは success / failure の2択でしたが、現実はもっと複雑です。そこで成功判定を5段階に細分化しました。
- fatal_failure(致命的失敗)
- failure(失敗)
- success(成功)
- great_success(大成功)
- costly_success(代償付きの成功)
特に「代償付きの成功」は物語化において非常に便利です。「目的は達成したが、大切なものを失った」といった、物語特有の苦いニュアンスが、シミュレーション結果から自然に生まれるようになりました。
3. 属性は「スパイス」であって「縛り」ではない
今回、新しく「性別(gender)」と4つの職業を追加しました。
追加した職業は、「ダンジョン清掃員」「異世界コンビニ店員」「村の自称軍師」「放浪詩人」。どれも「物語のトーン」を意識した人選です。
ここで一つこだわったのが、「属性を数値バランスの道具にしない」という設計方針です。
性別によってステータスが変わるようなことはせず、あくまで物語生成時の呼称や関係性の変化を楽しむための素材として扱います。
職業ごとに「tone_bias」を持たせ、選んだ職業によってシリアスになったりコメディ寄りになったりといった、物語の「空気感」の誘導に徹しています。
4. X(140字)出力に見る「笑いの構造化」
今回のアップデートで最も苦戦したのがここです。
当初、X出力機能を作ってみたところ、AIが気を利かせて「Lv9 / 資産19G / 死に戻り0回」といった、味気ないリザルト画面風のまとめを吐き出してしまいました。
「そうじゃない。私たちが読みたいのは、そんなデータ要約じゃないんだ」
そこで、X出力を「スタイル分離」する設計に舵を切りました。
- literary: 叙情的な140字小説スタイル。
- subtle: 静かなコメディ。真面目な文体で、最後の一文で前提をズラす、一番こだわった「読者にツッコませる」スタイル。
- absurd: 短文、改行、現代語。勢いとオチで笑わせるスタイル。
作ってみて痛感したのは、「笑いは情報量ではなく、構造である」ということです。
「面白い設定」を増やすだけでは笑いにならない。「状況→ズレ→オチ」という構造をAIに明示的に指示し、時にはメタ視点を許可する。このチューニングによって、ようやくXのタイムラインに流れても違和感のない「断章」が生成できるようになりました。
とはいえ、まだまだ精度が低くてそこまで面白い文章にはなりませんけど。
「あえてやらない」ことで守る、このツールの面白さ
開発を進めていると、セーブ機能や戦闘システム、AI APIとの直接連携など、やりたいことは山ほど出てきます。でも、今回はあえてそれらを「やらない」と決めました。
0.3-betaの使命は、あくまで「AIが物語を書きやすい素材」を数字から「意味」へと昇華させること。複雑にしすぎると、このツールが持つ「解釈の余白」という面白さが死んでしまうからです。
「制約と運命を与えられたAIは、どこまで面白い物語を書けるのか?」
この実験に終わりはありません。ぜひ、新しくなった IsekaiSimu で、あなただけの「異世界の断章」を見つけ出してみてください。
面白い人生が生成されたら、ぜひXでハッシュタグ #IsekaiSimu を付けて流してもらえると嬉しいです。


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